土壌の放射能測定結果をみる時の注意

◆どんな装置で検査したのか?

ゲルマニウム半導体検出器で測定した値と、NaIシンチレーション検出器で測定した値を、同列に比較することはできません。

ゲルマニウム半導体検出器は、機器の価格が安いものでも価格が1500万円以上で、さらに、法で定められた放射線管理領域に設置する必要があります。一方、NaIシンチレーション検出器の価格は150万から400万円程度。置き場所に制約もないため、商店街やオフィス街の一角にある民間測定所に配備されているのは、このタイプのものが多いです。

NaIシンチレーション検出器は、ゲルマニウム半導体検出器に比べて、エネルギー分解能が劣っているため、セシウムの測定結果に、事故前から存在している天然の核種(放射性鉛、ビスマス等)の影響が加算されてしまうことがあります。特に土壌の場合は、その影響が強いため、場合によってはゲルマニウム半導体検出器の測定値の倍以上の値が出てしまうことがあります。この件については、鉛214、ビスマス214について(こどもみらい測定所)が参考になります。

空間線量も、異なる機種で測定した数値同士を比較してはいけないように、ゲルマニウム半導体検出器で測定した値と、NaIシンチレーション検出器で測定した値を、同列に比較することは無意味です。同じ機種で測ったもの同士を比較して、相対的な高低を判断するようにしたほうがよいでしょう。

一方、測定料金は、ゲルマニウム半導体検出器は1検体1万から数万円と高価ですが、NaIシンチレーション検出器の場合1検体数千円で測定できるため、身近な土壌を数ヶ所採取してどこが高いか比較したり、同じ地点の土壌を時期を変えて測定して変化をみる場合などは、NaIシンチレーション検出器を利用するほうがリーズナブルです。

【機種によって、測定値に差が生じる例】
下記は、2011年夏に、会のメンバーが、同じ土壌試料を、NaIシンチレーション検出器の業者と、ゲルマニウム半導体検出器の業者に測定を依頼して、測り比べた結果です。検出器の性能の差で、同じ試料でも、この程度の測定値の差がでる場合もあります。

* 試料: 埼玉県内土壌、表層数センチ(2011年夏採取)

■NaIシンチレーション検出器で測定→測定結果(放射性セシウム合算530Bq/Kg)

■ゲルマニウム半導体検出器で測定→測定結果(放射性セシウム合算200Bq/Kg)

ちなみに、NaI測定後、かなり時間をおいてからゲルマニウムで測定していますので、数値にはその影響(自然放射線の影響は土壌採取してから時間が経過すると減少)も出ていると思われます。また、第三者である原子力資料情報室にNaIの結果をみせて「きちんと測定している」というコメントをもらっているので、この業者の測定がいい加減であったわけではありません。測定値の差は、検出器のエネルギー分解能の差によるものです。

◆土壌をどう採取したのか?

土壌の表層を採取した結果と、深いところまで採取した結果を単純に比較はできません。

また、事故後に、その場所を耕したか、上下が混ざるようにかき混ぜたか、砂場であるならば砂が足された可能性はあるのか…など、様々な要因で値は変わってくるので、それらも考慮して、数ヶ所の平均値をみて判断するほうがよいでしょう。

それから、検査結果の放射能濃度はBq/Kgという単位で表示されますが、自分が測定した値(Bq/Kg)を、ベラルーシやウクライナの汚染地区分と比較して判断したい場合はBq/平方メートルに換算する必要がありますが、この件については、Bq/kgからBq/m2への変換方法について(日本保険物理学会『暮らしの放射線Q&A』)が参考になります。

一般的には、Bq/Kgの数値をBq/平方メートルに換算するためには「65を掛ける」ようです。が、これは「1センチ立方の土が1.3g程度の密度の土壌を、深さ5センチ採取した場合」の換算方法なので、どんな場合にも当てはまるものではありません。たとえば、1センチ立方1g程度の密度の土を深さ5センチ採取した場合は「50を掛ける」、1センチ立方1g程度の密度の土を深さ1センチ採取した場合は「10を掛ける」など、密度と深さを考慮するべきでしょう。また、上記観点からすれば、側溝の隅に溜まった少ない量の土の測定値に、単純に65を掛けることには、あまり意味がないと思われます。

ベラルーシなどは汚染地を区分けしていますが、その下限の値は37,000Bq/平方メートル程度であるようです。ちなみに、文部科学省による航空機モニタリング結果によると、部分的には高い地域もあるようですが、埼玉県のセシウム134と137の合算は概ね10,000Bq/平方メートル以下です。

事故以前の数値と比較する場合は、「日本の環境放射能と放射線」で、事故前の土壌中セシウム量を調べるとよいでしょう。例えば「2009年度のセシウム137濃度(土壌0-5センチ)」を調べると、新宿で1.5Bq/Kg、さいたま市桜区で4.8Bq/Kg、東海村で60Bq/Kgです。が、この数値はゲルマニウム半導体検出器による測定値だと思われますので、これも単純に民間測定所の結果と比較しないほうがよいでしょう。

事故直後の昨年の春の関東の土壌の測定値は、東京大学・小豆川助教のサイトに掲載されています。これは、ゲルマニウム半導体検出器で厳密に測定した結果で、事故直後の相模原市の表層には、セシウム137だけでも1Kgあたり1000Bq以上あった様子がわかります。(ちなみに、相模原市は昨年夏に土壌調査をしていますが、深さ5センチを採取した場合、2種類のセシウム合算でも100から200Kg/Bq程度だったようです)

2012.06.06更新



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